名水あるところに銘酒あり
日本酒の醸造に欠かせない「水」
古くから、日本で愛され、今では世界各国にもファンが多い日本酒。
日本酒の成分の80%は「水」。しかも、日本酒の製造工程では、「洗米」・「蒸し」で大量の水を使い、また、味や質に直接関わるものだけでなく、瓶や機材の洗浄にも水が必要です。その総量は、米の総重量の50倍に及ぶといいますから、水の重要性は言うまでもありません。大手酒造会社の多くが水の豊富な土地にあるのは、当然のことといえるでしょう。
古くから日本酒の生産地として名を馳せていた土地といえば、兵庫県の灘。江戸時代には灘から江戸へ下ってくるお酒が最上とされ、それ以外を「下らない酒」と一段下に見たほどです。諸説ありますが、「くだらない」という言葉の語源ともいわれており、日本人のお酒に対する関心の高さを感じさせます。
日本酒の醸造に欠かせない「水」
一大清酒生産地である灘を支えたのが、西宮神社の南東側一帯から湧出する「宮水(みやみず)」です。この水は、櫻正宗の六代目蔵元・山邑太左衛門が、天保11年(1840年)に発見したというのが通説。太左衛門は、西宮(現在の兵庫県西宮市)と魚崎(現在の兵庫県東灘区)で同じように仕込んでいるにも関わらず、できあがったお酒の味に大きな違いがあることから、お酒の味と水の関係に気付いたといわれています。今のように水を科学的に分析するという発想もない時代、水の成分に着目した太左衛門は、ある種の天才だったのかもしれません。
実際、宮水は近畿地方では珍しいミネラル豊富な中硬度(硬度6〜8)。カルシウム、カリウムなどが麹や酵母の栄養分となる一方で、発酵を邪魔する鉄分が極めて少ないのが特徴です。ただし、ごく近い場所で井戸を掘っても同じ水脈に当たるとは限らないため、「宮水」を掘り当てた農民が水を売って商売にした、という話も残っています。機能性の高い水は、昔から珍重されていた、というわけですね。