水素は、健康の役に立つ活性酸素には作用せず、悪玉活性酸素「ヒドロキシルラジカル」と結合し、還元することで、無害な水にします。
これまで水素は、悪玉活性酸素だけを選択的に消去する抗酸化物質ということはわかっていたのですが、抗炎症作用や遺伝子の発現に関わることはどのようなメカニズムか明らかにされていませんでした。
今回の研究発表のPOINT
“水素のより詳しいメカニズムが解明された!!”
- 水素が細胞のどこにどのようにアプローチするのかがわかった。
- 水素が「遺伝子」の働きを調整する。
- 水素が細胞膜の脂質がさびるのを防ぎ、カラダが悪い状態になるカギとなる物質を作らないようにする。
2016年1月、太田教授のグループは、英国の科学雑誌に「分子状水素が遺伝子発現を制御するメカニズムの解明」についての論文を発表しました。
これは、水素が多彩な機能を発揮するメカニズムを解明する画期的な研究報告で、水素の医療分野への適用を促進することが期待されます。
今回注目したのは、生体膜に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種のリン脂質(PAPC:1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン)。精製されたPAPCを、フリーラジカル連鎖反応によって化学的に酸化する際、1.3%以上の水素を存在させるだけで、酸化PAPCによる培養細胞への細胞内情報伝達を担うカルシウムの流入が低下することが確認されました。
さらに、網羅的遺伝子発現解析により、水素存在下で酸化されたPAPCは様々な遺伝子発現を変化させることが明らかになっています。とくに、NFATと呼ばれる転写因子の活性を低下させ、様々な遺伝子発現を制御しうることが明らかになったのは、注目すべきことといえるでしょう。また、培養細胞でフリーラジカル連鎖反応を人為的に生じさせた場合にも同様の結果が得られたことから、細胞内でも上記の反応が生じていると考えられます。
水素は、不活性であるが故に、酸化ストレスがないときは効果を発揮せず、フリーラジカル連鎖反応が亢進しているときだけ効果を発揮すると考えられます。このメカニズムの解明により、従来説明できなかった水素の効果の多くが説明できるようになりました。
この研究は、英国のNature出版社のOpen Access Online科学雑誌「Scientific Reports 6, Article number 18971 2016年1月7日」に掲載されました。
www.nature.com/articles/srep18971
(本論文(英文)はどなたでも無料で読む事ができます)